企業法務の「いま」とダイナミズム――「第13次 法務部門実態調査」の実施によせて

鹿児島大学司法政策教育研究センター教授
米田憲市

 

 ★「第13次 法務部門実態調査」のご回答はこちらから!(〆切:7/31(木))★ 

 

 1. はじめに


 今年は、5年に一度、(公社)商事法務研究会と経営法友会が実施している、いわゆる「法務部門実態調査」が実施される年である。本稿執筆現在、5,000社を超える調査対象を選定して調査票が送付され、回答をお願いしている段階にある。

 この調査は、1962年の先行調査および1965年の第1次調査以来、60年以上にわたり継続的に実施されており、今回は、第13次調査ということになる。その時々の法務部門を中心とする企業内法実務の実情や将来展望を明らかにすることを主たる目的として、企業法務を客観的に把握する情報を提供し、それを通じて各社の法務体制構築の指針や手がかりを提供してきた。さらに、この調査は、これまで司法制度や弁護士活動、法曹養成や法学教育、法務人材市場などの関連領域においてたびたび参照されてきたことに加え、今次調査は法情報サービスや法実務支援ツールに関わる業界からも注目され、今後の法実務の革新に向けた取組にも影響を与えることになろう。

 前回調査は、コロナ禍のまっただ中であった。2020年4月に「緊急事態宣言」が出され、回答を依頼した8月から11月は、「第2波から第3波の間」でコロナ対策の初期対応を終えて、「応急ながらも」「事業体制の再建が整った頃」だったとされている。あの状況を乗り越えた「いま」、法務部門としての業務遂行の方法や組織および担当者のあり方や考え方は、どのようになったのだろうか。

 筆者は1995年の第7次調査より、この調査の実施に参加しており、今次調査にも関わらせてもらっている。本稿では、こうした経験を踏まえ、「法務部門実態調査」の特徴と沿革をたどったのち、第13次調査での新たな試みについて紹介し、調査結果の活用や効用にふれて、この調査に協力する企業が増えることに貢献したい。

【表】第13次 法務部門実態調査の質問の概要

・回答企業の属性
Ⅰ 法務部門の構成と法務担当者の位置付け
 (1)法務の組織と体制
 (2)法務部門の構成
Ⅱ 法務部門の役割
 (1)法務部門の役割
 (2)重要案件への対応
 (3)紛争・訴訟への対応
 (4)法的リスクの管理と危機対応
 (5)教育・研修等
 (6)経営陣・他部門への対応
 (7)グループ会社への対応
Ⅲ 法務組織の管理・運営
 (1)目標・費用管理
 (2)法務人材の管理
 (3)業務の遂行と効率化・IT化
Ⅳ 弁護士
 (1)社内弁護士
 (2)日本の社外弁護士
 (3)海外の社外弁護士
 (4)社外弁護士(国内・海外)の管理
Ⅴ 法律事務の分担状況
Ⅵ 企業法務部門の将来
Ⅶ 最後に(法務部門の今後についての自由記述)

 

 2. 「法務部門実態調査」の沿革と意義


 さて、「法務部門実態調査」を語るに当たり、企業活動において、企業法務という捉え方はもちろん、現在イメージされるような法務部門や法務担当者というものが存在する前から、この調査が実施されていたというと、おそらく読者の多くは驚かれたり、意味不明と感じられることであろう。

 法務部門があり、法務担当者がいるのは当然であり、企業活動の中でも「法務」は重要で、その社会的な影響力を強めているというのが「常識」であって、あえていえば日本のどの企業にも法務部門がなかった時代があったことは考えたこともなく、法務のない企業活動はあってはならないものであって、法務部門に属することで、日々の業務を「法務」と考えて真摯に取り組んでいるというのが、平成以降の法務担当者であるともいえよう。

 しかしながら、この調査が最初に実施された1960年代は、法律業務はあってそれを遂行する担当者はいても、その担当者はわれわれが考えるような法務担当者としての自覚はもちろんなく、企業内でもそうした者として認知されていなかった。ましてやいまわれわれが観念する法務部門というものは、存在も、認知もされていなかったといってよい。

 そのような状況で、いかにこの調査が成立していたかといえば、法律業務の担い手が誰かをたずね、その担い手を明らかにする形を取っていたからである。

 そうした意味で、1960年代に、いまにつながる「法務」への助走期を作り出したのがこの「法務部門実態調査」であるということができ、続く1970年代から1990年代までは、法務部門の設置や充実、担当者の確保に向けた啓発活動の一環としてこの調査が実施されてきた側面があるといえる。すなわち、企業活動の各所に散らばる法律業務の中から、「法務」という職能や組織的な機能と結びつけて一つの観念としてまとめ、その担い手が法務担当者や法務部門であると定義して、企業活動における法務の存在を確立するという活動が行われていたのである。

 おおよそ2000年以降になると、「法務部門実態調査」は、広く社会が法務部門や担当者の存在と意義を知る源泉となり、その専門性が認知され活用されることに貢献するようになる。司法制度改革における弁護士増員策は、そのニーズの一つとしてこの調査で示される「法務」という職域の存在が前提であったし、現在盛んに行われている中途採用における法務人材市場の確立も、この調査を通じて確立してきた「法務」という職域と職能の認知の広がりによって生み出された、法務部門や担当者の存在が基盤となっている。

 そうした意味で、今日の企業法務は、個別の企業や担当者の現場の経験や活動だけで成立したものではなく、企業法務全体を捉えて描き出そうとする試みと合わせて初めて成立したものなのである。すなわち、「法務部門実態調査」は、まさに企業法務を生み出し、現在はもちろん、将来に向けてそれを存在させる機能を果たすものであって、企業法務の存在にきわめて重要な地位を占めるものであったし、現在も同様であるということができる。
 

 3. 将来を見て「いま」を捉える質問の作成


 さて、その「法務部門実態調査」を実施するに当たっての特徴と強みは、その質問内容を企業法務の最前線にいる担当者が吟味・検討して、質問文を起案している点にある。第13次となる今回の調査では、2023年11月に経営法友会に法務部門実態調査検討委員会が設けられた。検討委員会のメンバーは、企業規模・業種のばらつきやジェンダーバランスを配慮して構成され、第12次調査の調査票と分析報告を参照しつつ、継続調査としての一貫性を意識しながら、一年以上にわたり月に一回程度のペースで会合を開催して検討を重ねてきた。「いま」の法務部門の課題やニーズに応えることを目標としてすべての質問を精査し、メンバー各人の経験や会合での議論を踏まえつつ、新たな視点からの質問を加えて、企業法務の「ダイナミズム」を明らかにすべく調査票を作成した。

 1970年の第2次調査以来、この調査では2つの視点から個々の企業の法務体制を捉えようとしてきた。その一つは、「法務部門」の組織や活動であり、もう一つは社内の「法律業務」の処理体制から見たその担い手の広がりである。

 後者は、法律業務の担当部門の広がりである反面、法務部門の守備範囲ともいうことができ、先に述べたとおり、法務部門がなかった時代に法律業務をリストし、それをどの部門が担っているかを問うことからこの調査が始まったことに由来する。1970年代からは法務部門の設立への取組と相まって、前者の「法務部門」の組織や活動と組み合わせるかたちで質問全体が構成されるようになった。それは、第13次調査でも受け継がれており、特定の企業法務像を前提とするのではなく、複眼的視座から各社の法務の多様性を把握しようとするところに、この調査の強みがあると言える。
 

 4. 第13次調査での新たな取組


 ⑴ 回答企業属性の現代化

 こうして準備された質問内容であるが、今回の調査における新たな取組の一つは、各社の属性をたずねるカバーページの部分にある。この部分はこれまで、調査の連続性を重視して、株式市場の制度変更など必要に応じた変更や、企業規模把握の方法に関する若干の修正にとどまっていた。しかし、前回調査で外資系か否かを問う項目が導入されたことに続き、今回の調査ではホールディングス会社か否かという質問や業種に関するカテゴリーを増やすことにした。特に、これまでの「商業」、「サービス業」という大きな業種カテゴリーを維持しつつ、商業については「卸売業」と「小売業」に分け、サービス業では「通信・ソフトウェア業」を加えた。これにより、より我が国の産業構造の変動を反映し、各社の事業環境に即した分析が可能になることを企図している。

 ⑵ 「法務体制」としての把握

 これまでの調査で最も注目されてきたのは、法務部門の位置付けや人員構成などを扱う部分である。今回の調査では、この部分に新たな視角からの質問が加えられ、充実が図られている。

 従来は、法務部門が部レベル・課レベルか、担当者を集中させているか、事業場や支店に分散しているかといった法務部門の集中配置か分散配置かという質問をしつつも、本社法務部門の人員構成や組織に注目した質問を用意し、分析報告をしていた。しかし、2015年の第11次調査以降、企業が法務の職能に基づき人材を独立して認識し、各部署に配置された法務担当者をも含めて回答するケースが現れ、第12次調査では趣旨を説明し、本社機能直下の法務部門の人数に修正してもらう作業が行われた。

 しかし近年、特に規模が大きな企業では、法務が本社の機能にとどまらず、企業全体の各所あるいは個別事業部門内での法務部門や担当者という場面を想定した文脈で語られることが増えた。そこで今回の調査では、本社法務部門に加え、他部門に所属する法務専任担当者の人数を把握するための質問が設けられ、本社法務部門への関心を維持しつつも、全社的な法務体制や法務の職能を持つ人材の把握へと、視野の拡張が図られている。

 すなわち、本社法務部門の実態のみならず、企業全体の「法務体制」のあり方をより明確に把握することが試みられているのである。

 ⑶ 「働き方」と効率化・IT化

 今回の調査では、「業務の遂行と効率化・IT化」に関する質問群について、近年の情勢を反映し、大幅に改訂している。前回調査から注目されていた業務の効率化やノウハウ共有に加え、ICTの普及を踏まえた働き方改革、生成AIの利活用を見据えたリーガルテックの普及に関する質問が設けられている。

 働き方については、新たにリモート勤務、フレックス勤務、副業・兼業、フリーアドレス導入の有無を問い、特にリモート勤務についてはその度合いにも踏み込んだ。

 また、法令・判例情報の調査用データベースや契約書管理システムに加え、リーガルテックと総称される各種業務支援サービスの利用状況についてもたずねており、単なる導入の有無ではなく、業務フローの中での具体的な活用方法について問うなど、多角的な視点から現在の「働き方」を明らかにしようとしている。

 ⑷ 弁護士の起用と活用の新形態

 「法務部門実態調査」における企業法務と弁護士との関係への関心は、1999年以降の司法制度改革による弁護士法改正や法曹養成制度の改革に伴い、大きく変化してきた。

 そもそも社内弁護士については、この調査の初期からアメリカのIn-House CounselやGeneral Counselを念頭に置いて、関心が寄せられていた。しかし、1970年の第2次調査以降は、日本型法務の構想のもとで、弁護士資格の有無を問わず「法務部門」の強化に注力してきたこと、また当時は社内弁護士が極めてまれであったことから、主に社外弁護士との関係に調査の焦点が置かれてきた。

 しかし司法制度改革によって弁護士が増員されると、しばらくの停滞は見られたものの、社内弁護士の数も急増し、現在では企業による弁護士の雇用がすでに例外ではないことは、共通の認識であろう。

 2010年の第10次調査以降、調査票には社内弁護士の採用や業務内容に関する質問が充実されてきたが、第13次調査では、従来の人員数、所属部門、採用経緯、採用意向、メリット・懸念に加え、外部事務所からの派遣や出向の受入に関する質問が加えられるなど、より踏み込んだ内容となっている。
 

 5. 次世代法務への成果の獲得に向けて


 以上、本調査において従来の調査と比較して新たな取組をしようとしている部分を4点取り上げた。これらを総括すれば、第13次調査では、法務部門としての実態把握やその強化という視点にとどまらず、現在の産業構造の反映、企業全体としての法務体制の強化、働き方改革やICT活用による業務変革、そして企業法務における弁護士の新たな役割の把握が意図されているということになる。

 しかし、検討委員会による、今回の調査票における個別の質問の工夫はこれにとどまらない。前回調査で関心の焦点となった企業価値の向上に向けた「次世代法務」の役割を念頭に置いた経営判断への関与をはじめ、立法活動への関与、グループ会社管理、グローバル化やクロスボーダーな企業活動に伴う新たな課題への対応など、随所に将来を見据えつつ、現在の企業法務の到達点を把握しようとする試みがなされている。こうした試みや取り上げられたトピックは、各社の今後の対応におけるヒントや手がかりとなり、調査結果はその裏付けを提供するものとなろう。

 前回調査のコロナ禍までの時期も想定外の事態が重なっていたが、それから5年を経た現在も、当時からは想像できなかった状況が続いている。

 上述したように、「法務部門実態調査」は法務の現状を明らかにすると同時に、企業法務が存在する基盤として、次世代の企業法務のあり方への指針を提示する、企業法務を支える大きな柱であった。そして、各社の個々の担当者が、日々の業務の中で法務のあり方に真摯に向き合い、自らの職能を高めるモティベーションとしてこの調査を参照し、また、企業内で法務部門としての職責を果たす、その尺度としてこの調査を活用してきた。そのことが企業法務の発展を現実のものとしてきた一側面であるのは間違いない。

 第13次調査の質問票では、半世紀以上にわたる定点的位置から継続的な比較を行う役割を意識しつつ、いま現在の企業法務のダイナミクスを明らかにする準備がなされており、各社の充実した回答を得られれば、企業法務の次への発展の基盤を得られることは間違いない。

 企業法務に注目する者として、一社でも多く、回答が寄せられることを期待したい。
 

(初出:NBL 1292号(2025年6月15日号)35頁)

 

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